AppleInsider: iPad の内側: Apple の A4 プロセッサ

原文: Inside the iPad: Apple's A4 processor

By Prince McLean
Published: Friday, April 2, 2010 01:10 PM EST
AppleiPad を披露する際、その新ハードウェアには A4 という名称の新しい Apple 製システム・オン・チッププロセッサが使われているとさりげなく言い添えて、皆の驚きを誘った。 Apple 初のチップが同社にとって新たな時代を示すものとなる一方、カスタムシリコンを製造するという同社の能力は、個人所有の ARM 設計会社の買収という噂とともにさらに大きくなるものとみられている。

点と点をつなぐ
iPad を初めて披露した際、同社はその 1GHz というクロックスピード以外は A4 SoC の実際の仕様をいっさい明らかにしなかった。
「私たちはこのチップを A4 と呼んでいます」と iPad のイベントで語った Steve Jobs。「私たちが手がけたなかでももっとも進化した、iPad を駆動するチップです。 このチップには、プロセッサー、グラフィクス、I/O、メモリーコントローラ ... すべてがこのひとつのチップに収められ、驚くほど高速です。」
A4 について一般に明らかになっているのは AppleInsider で公開されているのと同じようなレポートに基づいたもののみであるものの、AppleARM アーキテクチャ をベースにして Imagination からのグラフィック・ビデオコアを組み込んだ独自のカスタムプロセッサを設計仕様としていることを示す情報のネットワークが見えてくる。
同年 Apple は、高度で特殊化した PowerPC プロセッサを開発してきた工場を持たないチップデザイン会社である PA Semi を買収した。 その直後 Jobs は The New York Times に対し「PA Semi は iPhoneiPod 用の SoC を手がけることになる」と語っている。

ワイルドなレポート
この新しいチップに関しては特に言い立てるほど重要なものはなにもないが、さまざまな消息筋は憶測をもとに勝手な話をつくりあげはじめているようだ。 ブログ「Bright Side of News」は 1 月下旬、A4 には Cortex-A9 MPCore(nVidia TegraQualcomm Snapdragon にあるプロセッサと同一のもの)と ARM による設計の Mali 50-series GPU コアが含まれているとする 記事[和訳] を投稿した。
2 月末 Ars Technica の Jon Stokes は、A4 はひとつの Cortex-A8 CPU と PowerVR SGX GPU であるとし「大げさにかき立てるほどのものではない」とも付け加えて、先に投稿されたその記事に対して 反論している[和訳]。 Stokes によると、A4 はカメラ処理機能を省略してパワーをかせいでおり、スマートフォンで使用するには適さないものになっているという。
2 月の The New York Times に掲載された別の記事では、「こうした企業がゼロからスマートフォン用チップを製造するにはおよそ 10 億ドルはかかるだろう」とするにあたって、AppleNvidia そして Qualcomm は皆、独自の ARM ベースのチップを開発していると述べている。 ライセンスされた ARM 設計をベースに SoC を開発するということは「ゼロからの製造」ではなく 10 億ドルもかからないが、この記事によって Apple が A4 に 10 億ドルをかけたとする記事が相次いだ。

A4 プロセッサー

ASIC か ASIC でないか
カスタム ASIC(アプリケーション固有集積回路: 多数の顧客によって幅広く使用されることを念頭にした汎用部品ではなく、特定の目的を念頭においた一企業によって製造されたチップ)のほんとうの設計コストは、関連するすべての研究・開発費を含めても 1000 万ドルに近いものだ、と 15 年にわたってセミコンダクタ市場で活躍してきたベテランである JC Rebic は語っている。 ARM SoC を手にしていた Apple の設計努力は、明らかにゼロからのスタートではなかった。
Apple のそれまでの iPodiPhone モデルでは、コモディティ ARM SoC を利用していた。これは、同社にとってこうしたチップから独自バージョンを作成するだけのコストに見合う価値がなかったからだ。 これによって Apple は、こうした製品のハードウェアデザイン、ファームウェア、そしてクライアントソフトレイヤーに集中することができ、ここに同社の価値が加えられ、他の MP3 や携帯電話との差別化がされている。
しかし Apple は長く、オリジナルの 68k ベースの Macintosh から PowerPC Macチップセットまで、さまざまなサポートチップをカスタム設計して独自の ASIC を開発してきた。 事実、AppleIntel の CPU に加えて、Intel による出来合の(I/O やメモリー管理などの機能を司る)チップセットを使いはじめたのは、移行期においてのみだったのだ。
Intel 移行期間中に新パートナーに設計役を任せてしまえるのではないかとの希望のもとに自社の ASIC チームのほとんどを劇的なまでに縮小した後、Intel の陳腐なデザインから逃れる以上のものではないとしても、Apple は再び独自のカスタムシリコンを製作する方向へと向かいつつあるようだ。 Apple は当初 Nvidia とパートナーを組んで その革新的な新シングルチップチップセットを利用したものの、Intel が自社の最新プロセッサを独自の関連チップセットにつなぎ止めて その新しいパートナーシップに待ったをかけてきた
PC プラットフォームのカスタマイゼーションによって、Apple が自社の Mac のためにカスタムチップを開発する余地が残されたものの、モバイル分野では、同社は自社製品の差別化にとってはるかに大きなチャンスを手にしている。 今回の A4 で、誰もが買えるような汎用部品に頼るのではなく、独自の SoC を製造するという Apple の選択が正しかったことが実装されることになるだろう。

製造コストの内側
Rebic は、チップのコストはひとつのウェハー(チップのダイサイズとなる産物)からどれだけの数のデバイスが製造できるかと、そうしたチップのどれだけが求められる仕様のパフォーマンスに達するか(歩留まり)に依存する、と説明している。 Intel のような汎用チップメーカーにとっては、Core 2 Duo のようなチップのウェハーを製造し、それがどの程度の信頼性を持って動作するのかをテストし、それから指定スピードで実行できる能力に応じた品質バッチ(異なる価格設定)のもとにチップを販売するのが通例だ。
Apple は、サードパーティへの販売ではなく自社利用のために A4 を製造しているため、異なる定格スピードを設定する必要はいっさいない。 同社が求めているのは、ひとつのウェハーからできるだけ多くのチップを製造し、そのすべてが 1GHz で実行できることだ。 Rebic の予測によると、チップの実際の製造は 500 万ドルに満たないものの、年間 75 人のエンジニアを雇った場合の設計コストにおよそ 3000 万ドル、加えて PA Semi の買収に 1 億 7500 万ドルがかかっているという。
それらすべてのコストを含めると、単に Samsung からチップを購入するのではなく独自の SoC を製造することで Apple が得られる利点は、特に数百万台しか販売されないような iPad のようなデバイスにとっては、それほど大きいものではない。 しかし Apple がその生産量を増やすにつれて、iPod/iPhone 市場のスケールメリットを活かして自社のカスタム SoC をより廉価により良いものへとしていくことができるだろう。
コストの問題について Apple は、正確には 1GHz で動作しない自社の A4 部品を、同社の AirPort ワイヤレスルーターの製品群といった、すでに ARM チップを使用している別の製品で再利用することで、自社のチップの歩留まりを改善させてくる可能性を秘めている。 あるいは「例えば」と Rebic。「A4 ダイをより小型(より廉価)のパッケージに収めて、iPhone 用にクロックを下げてくることもできる(歩留まりの改善)。」
同社はまたシンプルに、さらに製造コストの低い「A3」のような新たなスケールダウンデザインを製造するというオプション(より小さなダイ、より良い歩留まり)を検討することもできる。 Apple は、引き続き A4 デザインを改善したりスケールアップするための大幅な出費には直面しないだろう。というのも、同社が大量需要に見合う製造を続ける限り、実際のシリコン設計や製造コストは比較的小さいからだ。

カスタム設計の内側
直近の大規模なコスト削減の必要がないことから、Apple が A4 の開発を手がける主な動機は機能と最適化に関連しているように見える。
iPad には必要のないこと(例えば、スマートフォンをターゲットにしている多くの汎用チップには、iPhoneAndroid でさえ利用しない Javaアクセラレーションのためのハードウェアサポートが含まれているし、MP3 チップには多くの場合 MicrosoftWMA と WMV コーデックが含まれ、されには汎用 SoC には iPad には備えられてさえいないデバイスやインターフェースのための I/O サポートが含まれている)をするために割かれた汎用シリコンから離れられることに加えて、Apple は独自プロセッサで最適化を進めるにあたって得られる豊富なデータを手にできる。
なぜなら Apple は独自のオペレーティングシステム、ウェブブラウザ、Cocoa Touch 開発プラットフォームも開発しており、150,000 以上のアプリというサードパーティのパートナーと緊密にかかわっていく必要があるからだ。 これによって同社は、正確にどの命令がもっとも頻繁に利用されるのかについて非常に精確な洞察を得ることができるとともに、同社がこうしたタスクのためのハードウェアアクセラレーションをカスタムサポートできるようになる。
QuickTime 再生、JavaScript の実行やその他の主要なタスクが最適化されて SoC 上のハードウェアの利点を活かすことができるのだ。 これはもちろんのことながら、Apple が閉ざされた Flash プラグインを Mobile Safari ブラウザ内で動作させることにまったく関心がないことの理由でもある。というのも Adobe は、Android や webOS に配布している一般的なランタイムよりも iPadFlash の命令を実行できるように大幅に最適化することには特別な関心をまったく持っていないからだ。 加えて Apple は、自社の新プラットフォームを Farmville を実行するためのエレガントな方法にするために自社の最適化努力を希釈させたくない。
Apple が A4 や将来の独自 SoC 類似品に加えるかもしれない他のハードウェアベースの最適化・カスタマイゼーションとしては、コーデックのためのさらなるアクセラレーションや暗号化、洗練された電源管理、さらにはカーネルのセキュリティーモデルを「ジェールブレイク」で覆しにくくするようなセキュリティーモジュールがある。
Apple は、ジェールブレイクをすることでエラーメッセージの洪水やユーザの不満を引き起こすことに加えて、大量販売をとおしたモバイルソフトウェアの安全で廉価なモデルとして大きな成功を収めている App Store を骨抜きにしかねないアプリの盗用にもつながるとして反対している。

Intrinsity の買収が噂される Apple
同社の明らかに大きな規模、独自のカスタム SoC をビルドするという長期計画を維持していくために、Apple は、個人所有の「その低電力な静的デザインテクニックで特に有名な」ARM 設計会社である Intrinsity を買収したと噂されている、と Electronics Design, Strategy News が公表した メモ にはある。
同レポートで Intrinsity は「EDN Innovation Award のマイクロプロセッサおよびイノベータ部門の両方におけるファイナリスト」とされていることから、同社は「A4 のための CPU コアテクノロジーのプロバイダー」なのかもしれない、とされている。
Apple と Intrinsity との関係、そして A4 そのものの未だに明らかになっていない仕様について詳しくは、iPad が一般に販売される今週にも明らかになるはずだ。